"シンバイオシス"

シンバイオシス

「Singularity」
シンギュラリティ

人間が人間を管理し、
人間が機械を管理し。

機械で人間を管理する為に
創られたグリッドサンド(人工知能)が人間の能力を
超えてしまった2045年頃。

グリッドサンド(人工知能)が機械を生み出し、
機械自ら発達が可能になった。

爆発的なスピードで世の中が発展し、
人間が機械を必要としていたこれまでの
概念が覆された【新世界】が始まる

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・シンバイオシス

▼第1話▼

時刻は1:25分。
この砂嵐の中、
すでに7日間はいる。

俺はいい加減に飽きてきた。

人工知能の兵士・・。
グリッドサンドは
俺ら人間とは違い疲れることを
一切知らない。

おまけに食料も不要だ。
必要なのはエネルギー源となる
トリルだ。

そんな奴らと戦うとか
正気の沙汰ではないが、
俺たちの未来がかかっている。
やるしかない。


「おい、この砂嵐はいつまで続くんだ?」


俺は隣にいるシンペイに聞いた。
シンペイはガムをクチャクチャ噛みながら
かったるそうに言う。

「今夜中には終わるはずだけどねー」

こいつは流暢な日本語を話すし
名前もシンペイという名前で日本人ぽいが、
見た目は白人だ。


瞳の色もブルーだし色も白い。
ただその長い髪の毛はきれいな黒髪だ。


遺伝子学の発達により、
瞳の色や肌の色を好き勝手決めることが
できるようになったその結果。

彼のようなもはや国籍不明な
人類が誕生することになった。
今ではそれは禁止されているが。

まあ無理に遺伝子をいじくり回すので、
奇形児や難病に苦しむ人間や
寿命が短くなったりするので
禁止されて当たり前の話だ。


「あの国境を超えるのは難しいだろ、
どう考えても」


シンペイの隣にいる、
眼鏡をかけたスズキが言う。

彼は真面目な口調だが
その指は不自然に宙を舞う。

あいつの眼鏡はトランスポート社の
旧式MR内蔵のものだ。

おおかたエアタッチパネルを使って
ゲームでもしているんだろう。


「呑気なもんだな・・」


スズキはこっちを見て
怪訝そうな顔をして指の動きを止める。

「おっと声聞えてるよ。
遊んでるわけじゃないから、ね」

思わず声が漏れていたようだ。
スズキは立ち上がって
俺らの前にホログラムのモニターを
映し出した。


「今このあたりの地形を調べてたとこ。
ここら一体は昔はトットリシティだったけど
今じゃもう砂漠地帯」


スズキは困った顔をして、
困ったふりをする。

「砂丘が砂漠になるとかギャグじゃんね」


シンペイがガムを膨らませながら
立ち上がってホログラムモニターを観る。


「ここの砂漠は昔、トットリシティだった。
そしてそのまま砂漠に飲み込まれて
街ごと飲み込まれている」


俺はホログラムモニターを観ながら、
遠い昔、子供のころのことを思い出す。

10歳ぐらいのころまで、
トットリシティに何度も行ったことがある。

あの時はそう・・。
ロレッタがいた。


その名前を思い出すたびに、
金髪がふわっとなびき
髪の毛についているフレグランスの
いい匂いが漂うのを思い出す。

夏の暑い日、
今ではめっきり聞くことのない
生きたセミが鳴いていた。

バーチャルではなく、
本物の生きたセミだ。


山の中に入って
くさむらをかき分け
俺たちは自然を堪能していた。

緑の匂い、太陽の痛い視線、
青空のおおらかな雰囲気。

でも彼女はあの時、
俺を庇って・・。


「・・・ぉぃ、・・・おい!!」
「聞いてんのか?」

「あ、ああ」


どうやら昔のことを
思い出していたようだ。

シンペイもスズキも
俺の顔を覗き込んでいる。

彼らに無用な心配をされてはダメだ。
もうこの隊には俺ら3人しかいない。
PTSDになっても仕方ない状況だ。

「じゃあ続けるぞー」

スズキが学校の先生のように
鉛筆でホログラムモニターを
指して話を続ける。


「国境近くまで行くには、
この砂嵐が止むのを待つしかない
明日の朝には止むはずだ」

「スペースカメラから観た感じ、
国境自体には何の建物もないし、
誰もいなさそうだ」


スズキは人工衛星からの
画像に切り替えて
ホログラムモニターに映す。

そこには何もない砂漠だけが
映されていた。

「なーんにもねーじゃん」

「そう、何もない」

「だからこそ、危ない・・か」


スズキはまたもや困った仕草をして
続ける。


「おそらくここにはレベル4の
セキュリティが仕掛けられている。

鉄壁のクリティカルロックだ。
ナノチップが付いているヤツしか
入ることができない。

入ってもいいけど、
おそらくレーザーで焼かれて丸焦げ」


クリティカルロック、やっぱりそれか。
どこもかしこもそれだ。

電子マネーや仮想通貨の世界が
この50年の間に台頭してきて
さらにはそこから身体の中に
ICチップを埋め込む会社さえ出てきた。


会社のセキュリティを上げるのはもちろん、
手をかざすだけで自動販売機から
ドリンクが出てくる。


当時は気持ち悪がって誰も
そんなICチップを埋め込まなかったが
チップがごくごくミニマム。

マクロなものになると、
その便利さゆえにどんどん広まった。

ピアスの代わりに耳にインプラントして
ファッションとして楽しむような
おしゃれなアイテムさえある。

それでも、
中には嫌がる人もいたが。


クレジットカードの支払いも
腕をかざすだけで終わるし、
会社のタイムカードもこれで一発だ。

ライフライン全般、
全てがこれで一発で終わる。

インターネットのログインも
スマホでの自動ログインも一発だ。

話しかけるだけで、
スマホでの検索も可能だし
一度使うとその便利さからは
逃れることはできない。


AIのグリッドサンドのやつらはそもそも、
このセキュリティ解除のチップを
体内に持っている連中がいる。

しかもそういったやつは
幹部クラスの賢い連中だ。

あいつらの賢さは群を抜いていて、
会話しただけでは人間と変わらない。
人工物とは思えないほどの秀逸さだ。
そうロレッタも。


「じゃあもう詰んでるじゃん、やっぱ」
「そう、詰んでいる」


スズキは今度は本当に困った顔をしている。
だが、ここまで来てそれはない。

俺らは何がなんでも、
トウキョウシティに行くしか
もう未来はないのだから。

つづく

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